COLUMNコラム
 

          
第7回 (2001年3月17日)
「ラテンになろうよ!」


■アドちゃん

 アドリアーノという選手が少しわかった。
前節、彼が登場したのをキッカケにリズムがなくなったのに頭に来て、
私は「さっさと引っ込めて田中を出せ」と書いた。
それについては別に後悔はない。
彼の出しゃばりで、試合がぶち壊しになったのは事実だから。
きょう、彼の2得点を見て、
要するにこの男は使い方によって毒にも薬にもなるのが判明した。
はっきり言おう。あの男は典型的なラテン野郎なのだ。
サンバのリズムに合わせて調子に乗れば実力以上の力を発揮し、
歯車が狂うと、自分勝手なプレーに走って
やることなすことチームプレーを壊す方向に進んでいくノリノリ男。
前の試合はマイナスベクトルで、
きょうの試合はプラスベクトルだったのだ。
だからあの選手は、監督が出番のタイミングを綿密に考えてやらないといけない。

■寅さんマドンナとアドリアーノ

かつて、映画『男はつらいよ』で、
山田監督は毎回のゲストであるマドンナをどんなシーンに登場させ、
寅さんとどんな出会い方をさせるかで脳味噌を振り絞るくらいに
考え、迷ったという。
ヘタな出方をさせると、映画全体が台無しになるからだ。
アドリアーノも、そんな『男はつらいよ』のマドンナみたいなところがある。
絶妙なシーンで出すとゲームが生き生きするのに、
うかつなシーンで出すと、ゲームそのものを殺してしまう。                            
きょうは、ピッタリだった。
2点離されたところでまず出しておいて、ちょうど、
その7−8分後、
思わず「お久しぶり!」と背中をポンと叩きたくなるような福田の登場だ。
いや、実に、ただひとりの選手がピッチに現れるだけで、
あれだけスタジアム全体の雰囲気が変わったシーンていうのも、かつて経験がない。
よりによってあの大柴に2点も決められて
さすがのレッズ・サポーターも意気消沈気味でいつものパワーがなかったのが、
福田ひとりで押せ押せムードに一変しちゃったからね。
「ゲットゴール・フクダ!」
の連呼で、まるで極寒のシベリアでやったような試合が、
たちまちリオのカーニバルに早変わりだ。
こうなるとラテン野郎は強い。
アドリアーノにとってはおあつらえ向きのお祭り騒ぎだ。
サポーターによっては、あの2得点も、アドリアーノというよりは、
実質、福田が決めたようなもんだ、という人もあろう。
確かにそういう一面はある。
2点もリードされていながら、味方が敵ゴール近くで攻撃していても、
4人も後ろに下がって守備に備えていたような思い切りの悪いチームが、
ピッチに立った福田の「前へ出ろ!」のゲキ一発で、
突然、積極的なチームに変身したのだから。
ただ、福田ひとりでは得点には結びつかない。
ちょうどこぼれ球を待ち構えられるポジションにいたアドリアーノがいたからこそ、
終盤での挽回もできたのだ。
アドリアーノと福田をうまいタイミングで出したチッタ監督も、
なかなか呼吸を心得ている。
まるで、山田洋次監督みたいだ。
なぜか、福田とアドリアーノが微妙に息が合っているのも、
きょうの試合を見ていて感じた。
互いに、「あいつは次にはこう動くかな」と
無意識のうちにわかっているようにポジショニングをとり、
得点に向けてひとつの型を作っていく。
福田が寅さんで、アドリアーノは浅丘ルリ子演じるリリーさんみたいなもんか。

■ラテンになろうよ!

となると、やや気にかかったのがトゥットの存在だ。
前の試合で小野、岡野とはタイミングが合っていたように見えたのに、
きょうの永井とだと、どうもパスがうまくつながらない。
福田とも、そう相性がいいようには感じられなかった。
彼はあくまで岡野と2トップを組んで、
J1一番のスピード・カウンター・コンビとして
他チームを脅かすのがいいかもしれない。
とにかくトゥット・岡野コンビ、
福田・アドリアーノコンビと、
ダウンタウン、ナインティナインの吉本勢にも負けない
2本のFWコンビがあるというのはなかなか強い。
相手によって、あるいはコンディションによって、
片方を先発に、片方をスーパーサブにもっていけば面白い。
面白くないのは、よりによってあの大柴に2点も入れられる情けないDF陣だ。
 みんな、アドリアーノが出てきたら、彼に合わせて、
サポーターもラテンになろうよ!


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山中 伊知郎(ヤマナカ・イチロウ)
昭和29年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒。
18歳からハゲはじめ、頭を剃る。
「スケバン刑事」の脚本家、テレビ番組の構成作家などを転々とした後、
フリーライターに。
関根 勉率いる劇団「カンコンキンシアター」の一員でもある。

TBSラジオ
「永六輔の土曜ワイド」にもレギュラー出演中。

主な著書
「関根 勤は天才なのだ」(風塵社)
「浦和レッズ至上主義」(風塵社)
「チョットいい犯罪」(図書新聞)
「頭髪のすべてがわかる本」(日本実業出版)

浦和市民であり、もちろん熱狂的浦和レッズファン。

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