COLUMNコラム
 

          
第73回 (2004年3月21日)
「勝手に永井の今後を心配する」


3月21日 ○4−2 セレッソ大阪(埼玉スタジアム)

うららかで過ごしやすいお彼岸の一日だった。とりあえず絶好の墓参り日和で何よ
りだった。
  私も、ご先祖様へのご挨拶も済ませ、自転車を駆って埼スタにかけつける。チケッ
トに指定されていたA8番ゲートは、試合開始20分前の段階で、なかなかモギリの作
業がスピーディーにいかず、行列5分待ちの状態だった。まさか、こんなところで待
たされるとは思わなかった。係員を一人か二人増やせばいいだけのことなのに。
 スターティングラインナップの発表にはギリギリセーフ。きょうのキーポイントは
セレッソ大久保へのブーイングの大きさと、サブとして登場の山瀬、啓太に対する声
援の大きさだ。ことに大久保に対しては、あの6−4の屈辱の思い出もあるものだか
ら、いつも以上にブーイングに燃えてた。大久保の名が呼ばれる直前、正面側の席に
座る私の方にも、レッズ・サポーターがブーイングしたくてウズウズしている鼻息が
伝わってきた。
  ここまで来ると、敵ながらアッパレ。
  その敵役・大久保に2得点をあげられたのは悔しいが、エメルソンの2点をはじ
め、相変わらずレッズ攻撃陣のキビキビした動きは、サポーターを十分に満足させて
くれるものだった。きょうはエメだけじゃなくて、長谷部も鋭かったし、三都主も右
へ左へとスペースを見つけて動き回ってたし、上がりそうで上がらないのか特徴の山
田も、鮮やかな押し上げを決めてくれた。長谷部の上げたレッズの2点目も、8割
方、山田の突破で決まったようなものだ。
  いい。実にいい。本当にこれで田中達也やトゥーリオが入ったら、一試合何点取れ
るかわからないような布陣になる。日本代表やオリンピック代表が何人抜けても強さ
がかわらないってところがすごい。レッズを見守りつづけて12年目、やはりいいチー
ムを作るには理論だけではだめで、いい選手を連れて来れる「お金」が先決、という
単純で厳格な現実を知ってしまった。
  しかし、どうも心配なのが、一人だけ、その流れから乗り遅れた感のある永井だ。
  前半だったか、ボールを持った永井が大久保にチェックを入れられている場面が
あった。それがまるで、いじめっ子の腕白坊主にちょっかいを出されて腰が引けてる
気弱な少年みたいで、少し情けなかった。体全体から発する気合いというのだろう
か、スキがあれば食いつきそうな大久保の気迫に対して、永井はどこか逃げ腰なの
だ。プレイの一つ一つに、「ここで絶対決めてやる」といった思い切りの良さがな
い。永井もすっかりベテラン臭くなっちゃったな、とマッチディプログラムで年齢を
確認したら、まだ25歳。
  若いじゃないか!
 1点目のオウンゴールでも、あれ、永井が思い切って蹴っていれば、永井の得点な
のだ。それをシュートだかクロスだかわかんない半端なボールで、うっかり相手DF
に触って入るっちゃったからオウンゴールになってしまった。後半に入っても、永井
のいる右サイドにボールが来ると、どうしても一瞬タイミングが狂う。コンマ数秒の
差かもしれないが、迷いの時間が入ってしまうのだ。「自分で行くか、クロスを出す
か」と必ず、永井はほんのちょっと迷う。エメも三都主も、田中達也も、ここで迷い
の時間はない。
  お笑いの若手芸人の中にも、似たようなタイプがいる。ネタ作りもうまい、アドリ
ブも達者、ルックスにも華やかさがある。でも、どうしても壁を超えられずに売れっ
子になれない。その壁が「思いきりの悪さ」なのだ。
 「となりの家に囲いができたね」「ヘイ」程度の低レベルのダジャレでも、思いき
りよくしゃべればウケることもある。だが、「受けるかな? だめだろうな?」とい
う迷いの瞬間がちょっとても入ると、どんなにいいネタを披露しても、笑いは小さく
なる。観客はその迷いを素早く嗅ぎ取ってしまうのだ。
  田中達也が戻り、山瀬も戻り、長谷部は進境著しいとなると、果たして、この「思
いきりの悪い」永井が生き延びる場所がレッズにあるだろうか? お笑い芸人のケー
スでは、こうした思い切りの悪さを克服してトップにのし上がった例はほとんどいな
い。大久保のような、思いきりの良さだけでのしあがる人間がほとんどだ。
  あるいは、ポジションを替えるか、チームが替わって違う環境になれば変わるのか
もしれないが・・・。はやくエメ、三都主、達也の3トップを見たい気持ちが強い一
方で、ずっと見てきただけに永井の今後は気にかかる。
 最後に、マッチデイを読んでいて、嬉しかった記事があったので触れておきたい。
元レッズで活躍した杉山が、ハートフルクラブという下部組織のコーチとして、レッ
ズに復帰したらしい。
 私はこの杉山という選手には、思い出があるのだ。「一生懸命やってるけど、セン
スのない選手」だの「サッカー選手らしからぬ地方の公務員顔」などと『REDS 
WIN』などでさんざ悪口を書いた。クロスをあげるにしても、ドリブルで出ていく
にしても、どうもピントが少しづつズレていて、あたらチャンスをつぶすシーンが多
かったからだ。
  ところが、あるパーティーの場で、偶然、本人と会ってしまった。で、気まずい思
いをしつつ「すいませんね、いつも悪口書いて」とあやまると、ニッコリ笑って、
「いいですよ。気にしてませんから」
 その言い方が実にさりげなくて、自然で、人柄の良さがにじみ出ていて、絵に描い
たような「好青年」であった。その後、ヴェルディに移籍したので、あまり試合は見
なくなったが、あの会話以来、私は「隠れ杉山ファン」になっていたのだ。
  その杉山が、子供たちなどにサッカーの面白さを伝えるハートフルクラブの仕事を
始めたという。こんなにピッタリの人材はいない。


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山中 伊知郎(ヤマナカ・イチロウ)
昭和29年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒。
18歳からハゲはじめ、頭を剃る。
「スケバン刑事」の脚本家、テレビ番組の構成作家などを転々とした後、
フリーライターに。
関根 勉率いる劇団「カンコンキンシアター」の一員でもある。

TBSラジオ
「永六輔の土曜ワイド」にもレギュラー出演中。

主な著書
「関根 勤は天才なのだ」(風塵社)
「浦和レッズ至上主義」(風塵社)
「チョットいい犯罪」(図書新聞)
「頭髪のすべてがわかる本」(日本実業出版)

浦和市民であり、もちろん熱狂的浦和レッズファン。

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