| COLUMN●コラム | ||||
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第66回 (2003年10月10日) 番外:「チケットを求めて」 ある程度までは白熱するであろう、とは考えていた。 しかし、ここまでスゴいとはさすがに予想はしてなかった。 もちろん決勝のチケット獲得の話だ。 去年のチケットは、あえて浦和をはずし、 私の両親が住んでいる東京北区のローソンに、 10時ちょっと前にロッピーの前でスタンバイして、 時報と同時にスイッチを入れたらあっさり買えた。 今回もそのパターンでいこうと、前日から両親の家に泊まりこみ、 朝の9時50分くらいにそのローソンに行ったら、 自分のアマさをいやというくらいにわかったのだった。 すでに4人も並んでいる。浦和のローソンならともかく、 ここまでナビスコカップの余波が来ていたとは! 前に4人もいて、果たしてチケットは手に入るのか、 と不安になっていくのだが、 「チケットが手に入る可能性はまだある」 と勝手に考えていたこと自体が根本的にアマかったのを、 時間がたつうちに知ることになる。 10時の時報までには、さらに私の後ろに3−4人の人たちが並ぶ。 だが、誰も、会話を交わさない。 10人近い人たちが、狭い店内、ちょうど雑誌のおいてあるあたりに 列を作る。何とはなしにすぐ横の雑誌に手が伸びてしまい、 私は「日帰りで行ける関東の温泉」 という雑誌をペラペラと立ち読みしつつ、その時を待った。 トップでロッピーの前にスタンバッていたのは30歳くらいの男性。 どうやら、ここならよもや並ぶことはあるまい、 と数十分前に車でやってきたらしい。いたんだろうな、 そういう人たちが埼玉のみならず、東京のローソンにもたくさん散らばって。 10時の時報とともに、その男性、さっそく購入の手続きを始める。 さすがに一人目だからスムーズに買えるかと思いきや、 これがまったくそうはいかないのだ。 余裕の表情だったその男性が、みるみる焦りの顔に変わっていく。 3分たっても5分たっても、いっこうに買える様子はなく、 同じような操作を繰り返している。 私は5番目なので、その男性の操作画面がよく見えないので、 いったい何が起きているかわからなかったので、つい話しかけてしまった。 「ナゴスコカップですか」 「エエ、そうなんです」 聞くまでもなかった。 すでにとっくに10人を超えていた行列の全員が、 同じ目的だったのは言うまでもない。 「買えないんですか」 「ただいま混雑しているので、もう一度操作をやり直してください、 って表示が出るだけで、ぜんぜんつながらないんですよ」 どうやら男性、ターゲットとして買うつもりだったレッズ側の自由席が つながらないので、他の席種のところ買えて操作をやっているが、 ぜんぜんどころもつながらないらしい。 この状態が10分近く続いたところで、行列の人たちが動揺し始めた。 何しろ、その時点で、私の後ろにも15人くらいは並んでいたのだ。 まともにいっても買えるかどうかわからないのに、 10時と同時に注文を入れた列のトップの人間が、 なかなか買えないのだから、そりゃ焦る。 焦ると、みんな揃って同じ行動を取る。 携帯電話で、仲間と交信を始めるのだ。必ず、 「そっち、どう?」 から会話が始まる。 私みたいに、携帯も持たず、他の店で並んでいる特定の仲間も いない人間は、相当にヘンな人であり、列にならぶ90%以上は、 そのどちらも備えている。 お陰で、ただ列に並んでいるだけで刻々とこの店以外の状況が私にもわかる。 総じて、仲間の誰かが「こっちは買えたよ」といっているケースは、 ほとんどなかった。携帯電話の相手先も、どこも苦戦の最中のようだった。 それよりも、とにかく並び方がハンパでなかったのが、 会話を通してよくわかる。 「エー! そっちは整理券が出たの!?」 浦和のローソンに並んでいた仲間のところでは、 あまりに行列が長くなって、店が整理券を出していたという。 ちょっと待ってよ、当日券を買いに並んでるわけじゃなくて、 1カ月近く後の前売り券買うのに何で整理券なのよ、と少し呆れる。 だが、これくらいなら、どうせ浦和の中だから、と納得できる。 「ヒェーッ! 志村もダメ?」 そんな声をあげている人もいた。 どうやら会話の様子によると、板橋区の志村に、 目立たないチケットぴあの店舗があって、 そこなら手に入るんじゃないかと9時過ぎに行ってみたら、 もう20人くらい並んでいて、ゲットは絶望的だという。 東京でも、埼玉に近い地域のぴあやローソンは、 おおむねキビしい状態のようだった。 15分過ぎくらいになると、私の5人くらい後ろにいた 若い女のコが泣きそうな声で携帯の相手にしゃべっている。 「去年は10時に来ればラクラク取れたのに、今年はぜんぜんだよー!」 そういう声を聞かされると、こっちまで泣き喚きたくなってくる。 だいたい8日に景気良く勝ちすぎたのだ。 どうせ2点差をつければ決勝に進出できるのだから、 2−0か3−1くらいで勝てばいいものを、調子に乗って6点も取って しまったものだから、サポーターがみんなソノ気になっちゃった。 今度こそ、「Jリーグ発足後初のレッズ優勝が見られる」 と勢い込んでしまったのだ。 思い返すと、去年はホームアンドアウエーではなかった上に、 準決勝は万博で、たとえ勝ちあがったとしても、 もうひとつピンと来なかった。ホームで、しかも6−1 での勝ちあがりを果たした今回とは、助走部分が違う。 走り幅跳びでも、ゆっくりした助走でジャンプするのと、 全力疾走の末にジャンプするのでは、飛ぶ距離がぜんぜん変わってくる。 今回はもう、全力疾走の上、踏みきり台ギリギリのジャストな踏み きりでのジャンプって感じで、能力を120%生かした驚異的跳躍といってもいい。 レッズの大勝のせいでこんな目に合わされてる! とだんだん6−1に対してハラがたってきた。 ハラを立てているうちにも、列の一番始めの人は、 相変わらず何度操作を繰り返しても、 「混雑中」の表示が出るばかりで、ぜんぜん本部につながらない。 そのうちにも、情報はどんどん入ってくる。 「チケットぴあじゃ、もう売り切れになってるらしい」 と仲間からのメール情報が来たらしい人がつぶやいたのが10時15分くらい。 たちまちのうちに並んでいたみんなにそれが広がった。 それで、何人か、列を離れて諦める人が出てくる。 私の前にいた4人のうちの1人、後ろに並んでいた15人くらいの 3分の1くらいはここで帰っていった。 私も、「こりゃもうムリかな」と思いながらも、 せっかく昨日は親の家まで泊まってここに来たのもあるし、 簡単には諦められない。 それ以上に諦められないのが、一番最初に並び、 ロッピーの操作を続けている30歳くらいの男性だろう。 列の前の方の4−5人は、わずかづつだが、 「買えませんねェ」「他のところも大変らしいですよ」 と会話も交わすようになっていて、 私もまた、操作してもしても通じない一番前の男性に、 「ぴあは売り切れたらしいですね」 と語りかけた。するとその男性、 「ぴあは、売り場に並んだ順に売ってきますけど、 ローソンは、店ごととにある機械がつながるかどうか、 運ですから。まだ可能性はあると思うんです」 そりゃそうだ。発売時刻と同時に操作を始めて買えないんじゃ、 泣いても泣ききれないだろう。 10時半になる頃までに、私の前の人の中でもまた1人、 後ろからも3−4人、諦めて列を離れていった人がいた。 だから、私は列の3番目になった。 が、別に嬉しくない。 何しろ、一番前の人がチケットを買えないままなのだ。 3番になったとしても、時間がたてばたつほど、 買えない確率は高くなるだけだ。 この時刻を過ぎると、不思議なことに、 それまでの「買えるかな。ムリかな」 といった苛立ちの気持ちがスーッと収まり、 なぜか心がなだらかになっていく。 「どうせ買えないだろうけど、並ぶだけ並んどこう」 という諦めと開き直りの心境になってくるからだ。 一番手の人さえ注文がつながらない状況も、 ある意味、「幸い」であったといえる。 ここでもし、「持つ者」と「持たざる者」が分かれていたら、 いったい自分がどちらになるかでずっと心が揺れ動いていたに違いない。 「オレの前で売り切れになるなよ! 後ろのヤツなんかどうでもいい!」 と利己的な気持ちに傾いていったかもしれない。 が、私のいたローソンでは、とりあえず「持てる者」はひとりもいないのだ。 みんなが、平等にチケットを買えていない。 その事実が、逆に待っている側を落ち着かせる。 だから、10時半から11時くらいまでの間、 まず99%はチケットゲットの見込みがなくなっているのに、まだ列に10人 近くが残って、機械が本部につながるのを待っていた。 店のレジの方では、店の従業員らしいオバサンと馴染み客らしいオジサンが、 「どうしたんだよ、アレ」 「ほら、サッカーのナビスコとかいう試合らしいよ」 「何だい、それ」 けげんそうに列の方にチラチラと目をやってる。 そうなんだよ、従業員のオバサンや北区在住のそのオジサンにとって、 野球の日本シリーズならともかく、 サッカーのナビスコなんたらは、まったく興味の外。 発売開始から30分も1時間もたって、 なぜそんなに列に並んでいるのか、わかるはずもない。 浦和レッズが優勝しようがしまいが、この人たちにとっては まったく関心の外なんだろうな、と思うとさらにまた、気持ちは落ち着いてきた。 ある時、何かに熱中して興奮状態でまわりが見えなくなっても、 やがて自分を客観視できるようになると、 スーッと気持ちが落ち着くことってあるでしょ。あれだな。 それまで、日本中の誰もが、8日の6−1で興奮して、 チケットを取るために並びまくっているような錯覚を抱いていた。 が、考えてみたら、そんなことはない。ほんの 数万人くらいが、バタバタと動いているだけなのだ。 列が、アイスクリームを売っているボックスの方にもつながり、 アイスを買いにきたオジサンが、 「なんだい、この列は?」といった顔でみんなを見まわしつつ、 カップアイスを持っていった。 そんな時、ちょうど店内の有線だろうか、かつて斎藤由貴 が歌ってヒットした『悲しみよこんにちわ』という歌が流れ出し、 「あれ、これってなかなかいい曲じゃないか」 と私は再確認してしまった。 確か『めぞん一刻』の主題歌になっていて、 私はあのアニメはほとんど見てなかったから、 別に時代的な思い入れはない。 だが、たぶん買えないであろうチケットを買うために並んでいる、 このちょっと間抜けで、でもへんな余裕のある空間には、 悲しみがやってきても明日に向かって希望を忘れないように、 と歌うこの曲は妙にマッチするのだ。 それと同時に、メールはともかく、列に並ぶ人たちも、 30分から40分を過ぎると、あまり携帯で話をしなくなりだすのも、 気がついた。ポッカリと精神的に穴があいた 感じで、活動的でなくなるのかもしれない。 私自身、だんだん、なんで列に並びつづけているのか、 理由がわからなくなっていた。 もはや入手の見込みはないのなら、この列から離れて家に戻り、 知り合いのレッズ・サポーターたちに電話を入れ、 家族三人はともかく、私一人分でも入手するメド をつけるべく動き出した方が、よほど建設的だろう。 ところが、どうもふんぎりがつかない。 もしかしたら、まだチャンスがあるかも、 なんて部分もわずかはあった。が、ほんのわずか。 それだけで並び続けていたとしたら、 たぶん30−40分で耐え切れなかったろう。 「これ、結局どうなるんだろう?」 つまり、最後の最後、結末まで見届けたいといった見届け願望が大きい。 一番最初に並び、何十回、何百回と同じ動作を続けている その30歳くらいの男性が、いったい どのくらいの時間で諦めるのか、 列に並んだ他の人たちはどのへんで去っていくのか、 そんなもろもろのことを終わりまで見てみたい。 別に、ずっと機械を占領しつづけている男性に対して、 「早くどけよ」などといった苛立ちも不思議に起きない。 こんなにずっとやってて、買えないじゃ大変だな、 と同情とも共感ともつかないヘンな意識が出てくるだけだ。 その男性も、最初のしばらくは、携帯で、 「ダメだよ。こっちはつながらないよ」 などとグチをこぼしていたが、そのうちに、どこか悟ったように、 「運がよければつながるんだかなァ」 などとつぶやきつつ、同じ操作を繰り返している。 一応、並んでいた列が崩れだしたのが1時間くらいたった頃が。 11時の時報をキッカケに3−4人が諦め、 7−8人が残ったくらいで、後ろにいた男性が、 「メールで、もうローソンもほぼ全部売り切れたらしい、っていってきましたよ」 と前にやってきた。仲間からの情報のようだ。 それがもとで、列がなくなり、機械と、 それを操作する男性を残った人たちが囲むような感じになっていく。 みんなで、どんな表示が出るかを眺めている形だ。 「ここでも、『完売です』って表示が出れば諦めもつくんですがね」 とつい、私も口走ったら、みんなが共感した。 そう、どの席種を押しても「完売」と出てくれれば、 一番手の男性はもちろん、他に残った人たちもダメだと諦めて三々五々なのだ。 ところが、相変わらず画面には 「混雑しているからもう一度」の表示が出るばかりで、本部につながらない。 ようやく、11時を過ぎて、ボチボチとつながりはじめるのだが、 SS席もSA席も「完売」が続く。 これでまた諦めた人たちが出て、残ったのは、私の前の二人と私、 後ろの一人と4人になっていた。 それでもまだ、一番手の男性は諦めきれない様子で操作を続ける。 また、一部の席、たとえば鹿島側の自由席なんてのが、 相変わらず「混雑しているからもう一度」 の表示が出るもんだから弱っちゃう。 とっとと全部完売とわかればいいのに。 私たちとしては、たとえ外部から「完売」といわれても納得できない。 この店の、この機械によって「完売」と出てくれなきゃ、 もはや信用する気にはなれないのだ。 1時間以上も付き合わされた身としては当然の思いだろう。 店の従業員も客も呆れているのか興味がないのか、 もう誰も何もいわなくなっている。 ついに結論がはっきり出たのは11時20分だ。 最後まで「完売」表示がなかった鹿島側のファミリー用自由席に「完売」と出て、 これで、すべての席種について、とにかくここのローソンのロッピーからも、 「完売」の返事が来た。ジ・エンドだ。 「やっぱり、ダメだったな」 心ならずも1時間20分も機械を独占し続けた一番手の男性は、 少し照れ笑いを浮かべて店を出ていった。 見ると、店の前に自分の車を路駐させていた。 たぶん10時になれば、すぐにチケットが手に入って、 そのままサッと車に乗って家に帰るつもりだったのだろう。 気の毒といえば気の毒だ。 私以外の残った二人も、心を残しつつも、「今回は厳しい」などと言いつつ、 店を出ていった。結局のところ、 私が行った東京都北区のローソンでは、 ついにただの一人もナビスコカップ決勝のチケットをゲットできなかったわけだ。 文字通り「徒労」。しかも、参加者全員が「勝ち組」になれなかった徒労。 私も、一度はそのまま帰ろうかと思ったが、 まったくロッピーに触れないまま帰るのも業腹で、 ひとり残った後、また、ナビスコカップのチケットが本当に完売かを確かめてみた。 本当に完売だった。 そのついでに、まだ買ってなかった18日の味スタのFC東京戦と、 もし第2ステージも好調が続けば優勝争いのヤマ場になりかねない 瑞穂のグランパス戦のチケットを買っておくことにした。 こちらは、待つこともなく、たった1分でゲットすることができた。 「お知らせ」 『浦和レッズ絶対主義』(長崎出版) ![]() ↑こちらをクリックすれば、買えるようになりました。 皆さんの感想が山中さんのモチベーションとなり次のコラムとなります。 是非とも感想は「山中伊知郎コラム感想掲示板」までお願いします。 (山中さんも見て、書き込みをしております) <無断転用・転載を禁じます>
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