COLUMNコラム
 

          
第55回 (2003年5月5日)
「狼少年・エメルソンの凄み」




  5月5日   ○1ー0    清水エスパルス(埼玉スタジアム)

  気持ちのいい天気で、気持ちのいい試合。試合終了後の、観客の表情が、
みんな実にすがすがしくて、自転車を引いて人ごみの中を歩くうっとうしさも、
まったく気にならなかった。
これがもししょーもない試合だと、自転車放り出したくなるんだけどな。
 とにかくきょうの試合はエメルソンに尽きる。点を取ってくれるということは
もとよりだが、彼には他の選手にはない圧倒的な個性がある。
その個性をずっと追って行くだけでも90分間、十分に面白い。
 スピードがあって、小技がきいて、何よりもよく転ぶ。
転んでファウルと奪おうとしても審判がちっともとってくれないところが、
逆に楽しくてしょうがない。私の後ろの席のオジサンがはからずもいっていた。
「エメがいくら転んだってダメだ。狼少年だからな」
 エメルソンはファウルが欲しくてしょっちゅうわざと転ぶ、だから本当に足をひっ 
かけられても審判は「どうせわざとだろ」と思って取ってくれない。
それを「狼が来た!」とウソをついて何度も大人をあわてさせたあげく、
本当に狼に襲われた時に「狼が来た!」と叫んでもみんなにウソだと思われて、
誰も助けに来てもらえなかった「狼少年」になぞらえたのだろう。
  しかし、これがまたエメルソンの強烈なキャラクターを与えているのだ。
一緒に来たウチの息子などは、試合そのものよりエメルソンが転んでも転んでもファウルをもらえない方に注目してしまい、「ほら、また取ってもらえないよ」
 と喜んでいる。ちなみにエスパルス側では、やたらと審判に文句をいう
三都主が似たキャラクターだが、さわやかに転び、ファウルなしでも平然と
また走り出すエメのすがすがしさには到底かなわない。
  それにつけても思い出すのは、福田の転び方のうまさだ。
ペナルティエリアに入ったあたりで、足がひっかけられたかどうかのきわどいところで、キレイに転んでみせる。
しかも、日本人だから、真面目な顔で、実直そうにさほどオーバーアクションで 
はなく転ぶ。そこへいくと、エメの転びは派手過ぎる。
だから余計に「あいつ、ワザとだな」と見られて、
うかうかするとシュミレーション取られてしまう。
  でもいいの。FWといえばサッカーの花形。その花形が目立たなくて、
どこがサッカーだ。芝居なんかでも、花形役者は少しぐらいの失敗は気にせず、
伸び伸びと、自分の個性を出しまくるのが役目だ。
要所をしめるのは脇役がやればいい。転びまくって、それでも流されて、
「まったく、ショウガナイヤッチャナー!」と後ろのオジサンを苦笑させるくらいで
ちょうどいいの。
  何しろ後半、一度だけファウルを奪って、ウチの息子なんか、「あれ、エメルソン 
がファウル取っちゃった」と逆にガッカリしてたくらいで、「狼少年」なら「狼少年 
」でトコトンいきゃいいんだ。で、結局、ただ転ぶだけじゃなく、ちゃんと点を決め 
てくれるからね。
 山瀬や田中や、それなりに個性のある若手選手はどんどん出てきてるけど、
やっぱり見てて一番楽しいのはエメルソンだ。






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山中 伊知郎(ヤマナカ・イチロウ)
昭和29年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒。
18歳からハゲはじめ、頭を剃る。
「スケバン刑事」の脚本家、テレビ番組の構成作家などを転々とした後、
フリーライターに。
関根 勉率いる劇団「カンコンキンシアター」の一員でもある。

TBSラジオ
「永六輔の土曜ワイド」にもレギュラー出演中。

主な著書
「関根 勤は天才なのだ」(風塵社)
「浦和レッズ至上主義」(風塵社)
「チョットいい犯罪」(図書新聞)
「頭髪のすべてがわかる本」(日本実業出版)

浦和市民であり、もちろん熱狂的浦和レッズファン。

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