COLUMNコラム
 

          
第34回 (2002年5月12日)
「Sさんのこと」


■5月6日○3−1 対サンフレッチェ広島(駒場)

終盤の一気の爆発で、景気よく3得点。
連休最後の日に集まった1万8千人近い観客にとっては、
これほど気持ちのいい連休のエンディングはなかったんじゃないか。

点をとったのがエメルソンとトゥットで、
日本人選手のゴールがなかったのが少し残念だが、
あまり高望みしてもいけない。
ようやく攻守、ことに攻の歯車が噛み合ってきて、
エメルソンがイキイキと楽しみながらドリブルしてる感じが実に伝わってきて、
嬉しくなってきた。
シーズンの最初の頃は周りと全然合わなくて、
いわゆる「一人相撲」だったからな。

そんなすっきり晴天の駒場のスタンドで、久しぶりに、ある人物とあった。
本人に書く承諾をとってはいないので、仮にSさんとしておこう。
Sさんは私と同じで、ずっとレッズの応援をしているものの、
やはりどうも団体行動が苦手のようで、いつも一人でスタンドにいる。
でもって、初めて彼から声をかけられたのが、
あの2000年10月22日の大分のスタンドだった。
レッズがJ1に戻れるかどうかがかかった大事な試合、
ホーバークラフトに乗ってわざわざ大分競技場に行くと、
すぐそばの席でSさんもレッズのユニフォームを着てひとりで座ってるのだ。
「山中さんですね。『浦和レッズは負けない!』は読ましてもらいました」
そういうSさんは丸顔、小太りで、年齢も30歳そこそこ。
その時は、仕事もあるだろうに、わざわざ大分くんだりまで来て、
大変だなァと他人事ながら少し感心した。
「勝ちますかね」
「大丈夫でしょ。クビツァもやっと調子出てきたみたいですし」
そんな会話を交わして、試合後、すぐに別々になった。

Sさんは、すぐそばに住む友人の家に泊まらせてもらうつもりだと話していた。
再会はすぐだった。
11月5日にひたちなかであった水戸ホーリーホック戦のスタンドで、
またすぐそばの席に彼がいる。考えてみたら、会うはずなのだ。
どちらも、正面スタンド、
レッズ側で、サポーター席のすぐそばだけどちょっと離れた自由席に座るのだから、
顔は合う。
「レッズ、J1戻れますかね」
「大丈夫でしょう。小野もいるから」
「そうですよね」
お互い励ましあいつつ、試合観戦をし、終わって、
競技場から日立駅までを一緒に歩いた。
簡単に今の仕事を聞くと、Sさんは、
「実は、ちょっとわけがあって仕事やめまして、今、無職なんですよ」
案外明るいトーンで語ってくれた。
あ、そうか、会社の制約がイヤでフリーターをしてるのか、
でもそろそろ年なんだから次の仕事、
早めに捜したほうがいいかもしれませんよ、
と私は気楽な気持ちでアドバイスしたら、彼は、
「今の方が、レッズの試合を全部回って見れますから楽しいです」
と笑っていた。地方のアウエーゲームも、行ける限り全部行くと明言していた。 
Sさんは、
「ボク、近くの友達のところに寄りますから、これつかって下さい」
と東京へ帰る分が残っている周遊券のキップを私にくれる。
お陰で私は電車賃を払わずに日立から家まで帰った。

で、その次に出会ったのが11月16日の大宮アルディージャ戦だ。
彼とは、いつもアウエーで会う。
ホームだと私も年間シート席で決まってるので、あちこち動かない。
アウエーだと、動く。
そのためか、J1に戻った2001年から、彼の顔をほとんど見かけなくなった。
私が横浜や東京スタジアムはともかく、札幌だの大阪だの、
そんなに遠いアウエーには行ってないのもあって、たぶん彼は、
もし就職がまだ決まってないなら、相変わらず日本中、
レッズを追って歩いてるのかな、と思った。
そういう生き方も、いい。
つまり、きょうの再会は、1年ぶり以上の再会なのだ。
それにしても、丸顔だったSさんの顔がちょっぴりこけている。
「相変わらず、全国歩いてます?」
「いや、ちょっと入院してて・・・」
私は、ごく軽い調子で、質問した。
「怪我でもしたんですか?」
Sさんは、やや口篭もって、それからスッと一言いった。
「ガンだったもんで、手術したんですよ。だいぶ前からなんです」
アラララララ、私は二の句がつげなくて呆然としたら、
Sさんはピョコンと会釈をして、そのまま歩き去ってしまった。
つまり、そういうことか・・・。
詳しいことはわからない。
果たして命に関わる程度のものなのか、
手術すれば治るものなのか、そこらへんを詳しく聞いたわけじゃない。
ただ、たぶんSさんが会社をやめたのも、
レッズの地方ゲームを全部見ようと決心したのも、
病気がはっきりした後のことだろう。そんな時、人間は
「自分にとって、いったい人生で何が大切なのか?」
を真剣に考えると思う。
家族か、仕事か、遊びか、恋人か?
そしてその結果、Sさんは「レッズを見つづける」のを選んだんだと思う。

たぶんきょうの試合は、そのSさんも喜んでくれただろう。
これからも、なるべくSさんが喜んでくれるような試合を見せて欲しい。
いや、レッズにはその義務がある。

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山中 伊知郎(ヤマナカ・イチロウ)
昭和29年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒。
18歳からハゲはじめ、頭を剃る。
「スケバン刑事」の脚本家、テレビ番組の構成作家などを転々とした後、
フリーライターに。
関根 勉率いる劇団「カンコンキンシアター」の一員でもある。

TBSラジオ
「永六輔の土曜ワイド」にもレギュラー出演中。

主な著書
「関根 勤は天才なのだ」(風塵社)
「浦和レッズ至上主義」(風塵社)
「チョットいい犯罪」(図書新聞)
「頭髪のすべてがわかる本」(日本実業出版)

浦和市民であり、もちろん熱狂的浦和レッズファン。

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