COLUMNコラム
 

          
第11回 (2001年4月14日)
「 挑発に乗るべきではなかった」


■対FC東京戦

 試合後、レッズ・サポーターがFC東京サポーターを取り囲んで
小競り合いがあったのは、私も見ていた。
別に止めようという気も起きずに、とにかく見ていた。
私自身、レッズ・サポーターがアタマにきている気持ちがよくわかったからだ。

FCの応援はあまりに確信犯だった。
「どっちもヘタクソ!」「金返せ!」
はまだいい。動きの鈍い両軍選手に対する叱咤として許せる部分はある。
だが、本来、レッズ・サポーターがやるべき福田コールを勝手に始めるなど、
明らかに、レッズ・サポーターをからかって、
笑い者にしてやろうとする意図がミエミエだった。
選手より前に、相手サポーターに動揺を与えてスタジアム全体の空気を
自分の側に引き込もうとする反則スレスレの高等戦術、
と書くとカッコいいかもしれないが、あるいは完全にルール違反かもしれない。
 が、からかわれて、怒ってはいけないのだ。あくまで無視すべきだった。    

■挑発に乗るべきではなかった

 私も、かつてよく経験した。18歳からハゲだした若ハゲだったので、
大人はともかく、子供たちなどから、よく「ハゲ」「ハゲ」とからかわれたものだ。
言われれば、むしょうにむかっ腹が立つ。
ぶん殴ってやりたくもなる。
でも、そういわれて怒ったら、向こうはもっと図に乗って挑発してくる。
アタマに来ても、耐えるべきなのだ。
耐えて、あえて無視していけば、相手は疲れてくるし、
反応がないのでつまらないから、そのうちやめてしまう。

きょうのレッズ・サポーターはスッポリと相手のペースにハメられてしまった。
確信犯の反則技に振り回され、そのあげく、
試合後に怒りを引きずって相手につっかかっていき。 
相撲でいえば、猫だましやら八艘飛びやら、
マゲまでつかまれての奇襲に幻惑されて土俵を飛び出してしまった上に、
まだ「お前は卑怯だ!」と土俵に上がって勝負を挑もうとしているようなものだ。
気持ちはわかるが、どこか空しい。
そして悔しい。

からかわれたり、バカにされたりしても耐えるのはツラい。
しかも今までレッズサポーターは圧倒的な数の多さで、
少なくともホームではそんな屈辱を味わったことはなかった。
初体験だからこその衝撃はあったろうが、これが貴重な経験に十分変わりうる。
挑発に乗るな。乗ったら相手が得をするだけだ。
 私のいる正面スタンドの周囲では、FC東京サポーターの卑劣な応援と、
まるでFCに雇われていたかのような主審のジャッジに対する怒りが渦をまいて、
それこそ嵐のような野次や怒号が飛び交っていた。
「しんぱーん! 勉強しなおせ!」
「しんぱーん! そんなに浦和が嫌いか!」                  
「しんぱーん! きょうはひとりで帰るな!」
 そう、確かにきょうの審判はヒドかった。
どんな基準でイエローカードを出しているのかもわからなかったし、
線審にしても、オフサイドの判定がアイマイだった。

だが、あくまでも、試合に負けたのは審判のせいや
敵のサポーターの応援のせいではなく、選手のせいなのだ。
そこをはっきり認識しなくてはいけない。
特に、はっきり特定すれば、アドリアーノに一番の責任がある。
トゥットが放ったシュートがゴールポストに当たって、
そのこぼれ球を詰めていたアドリアーノが決める、これはいい。
なぜかピッタリのポジショニングをしているアドの
「こぼれ球の魔術師」
的なキャラがいかんなく発揮されたシーンだ。
だが、なぜよりによって、公告のボードを越えてイエローを取られて退場、
なんてしょーもないことをするのだろうか。
誰もあれがイエローだと教えていないのならクラブの責任だし、
知っててやったのなら、アドは単なる「バカ」だ。
マリノス戦の井原の退場とはまったくわけが違う。
身を削って闘った末の退場なら、
まわりは「その穴を埋めよう」と火事場のバカ力で結束もしようが、
「バカ」な人間が「バカ」なことをしたための退場となると、
「チェッ、あのバカが!」とチームの勢いは一気に萎えていく。
幸か不幸か、私の席からは遠くて、
その瞬間はいったいなぜアドが退場になったのかわからなかった。
が、後でテレビを見て実情を知り、ア然としてしまった。
勝負はあそこで決まったといっていい。
ただ選手がひとり減っただけではない。
レッズに向かいかけていた勝利の風が、フーッと向きを変えてしまったのだ。    

 アドリアーノはやはり毒薬だ。うまく使っていけば体をなおしもするが、
うっかりすると、チーム全体のバランスをズタズタにしかねない。
注意して扱わないと。



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山中 伊知郎(ヤマナカ・イチロウ)
昭和29年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒。
18歳からハゲはじめ、頭を剃る。
「スケバン刑事」の脚本家、テレビ番組の構成作家などを転々とした後、
フリーライターに。
関根 勉率いる劇団「カンコンキンシアター」の一員でもある。

TBSラジオ
「永六輔の土曜ワイド」にもレギュラー出演中。

主な著書
「関根 勤は天才なのだ」(風塵社)
「浦和レッズ至上主義」(風塵社)
「チョットいい犯罪」(図書新聞)
「頭髪のすべてがわかる本」(日本実業出版)

浦和市民であり、もちろん熱狂的浦和レッズファン。

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